難陀へのお釈迦様の方便の話

 お釈迦様の異母兄弟の難陀に対する釈尊のなされた勧化の話です。

 この方は、お釈迦様が異母兄弟で、マーヤー夫人の妹の摩訶波闍波提と浄飯王のお子さんでした。お釈迦様が出家してからは、浄飯王は難陀を跡継ぎに考えていたのです。また、大変綺麗な人と結婚することになっていました。

 そうしたころにお釈迦様がカピラ城に戻ってきました。お釈迦様の勧化力はすさまじく多くの若者を出家させてしまいます。その中に難陀もありました。また、難陀はちょうど結婚式当日にお釈迦様によって無理やりのように出家させられました。浄飯王の悲嘆は計り知れませんでした。

 さて、難陀はそうやって出家したので、一人で修行しようとすると結婚することになっていた奥さんの姿が思い浮かんで、なかなか修行に身が入りません。その奥さんは大層綺麗な方だったようで、それが影響したのでしょう。そんなときにお釈迦様がやってきて、難陀と話をされます。難陀は、正直に「結婚することになっていた妻の姿の眼に浮かんで修行に身が入りません。こんなことなら還俗した方がよいのではないか」と言って、悩みを打ち明けられます。

 思うに今の方ならどんな教化をされるでしょうか。弾呵の説法と言って大変叱りつけられるのではないでしょうか。しかし、釈尊は違いました。お釈迦様は難陀の悩みをよく理解されたし、方便も知っておられました。煩悩の多いものをどうやって修行に就かせるべきなのか。その時お釈迦様は、神通力で難陀をまずヒマラヤ山に連れて行き、一匹の雌猿を見せました。そしてその上で、一緒に天上界に連れて行き、そこで天女をお見せになっておられます。

 難陀の驚きは各別でした。戻ってきた難陀は天女のあまりの美しさに感嘆し、天上界の人に比べたら、私の妻などまるで木の上で餌を取る猿のようなものだと言って、それから修行に励むことができるようになります。このようにして異性への執着を軽減させる方便をお使いになったのです。

 思い出しますが、学生時代に、私は夢の中で金色の菩薩を拝見したことがあります。あまりの綺麗さに感嘆し、二三日、どんなに綺麗な人を見ても、綺麗に思えなかったのを覚えています。その後、この話を読んでやっぱりこういう方便があるのだなぁと思ったことがありました。

 阿弥陀仏の十二光の中に清浄光明というのがあります。その光を受けると貪欲の煩悩は消除されると。。。こういう話と合わせて考えるのが良いと思います。